最近、私たちの生活の中でも「AI」という言葉を聞かない日はないくらいになりました。
文章を作ったり、写真を加工したり、質問に答えてくれたり。数年前までは少し未来の話だと思っていたものが、かなり身近になっています。実は、歯科医療の世界でもAIの研究や活用はかなり進んできています。
では、AIが普及すると歯科治療はどう変わるのでしょうか。
「そのうちAIが虫歯を見つけて、歯医者はいらなくなるのでは?」そんなふうに思う方もいるかもしれません。
私自身は、少なくとも今のところ、そういう方向ではないと思っています。
歯科でAIとの相性が良い分野のひとつが、レントゲンやCTなどの画像診断です。歯科医師はレントゲンを見ながら、虫歯や歯の根の状態、骨の状態、親知らずの位置など、さまざまな情報を読み取っています。
AIは大量の画像を学習することで、「この部分に異常がある可能性があります」といった候補を示すことができます。
2026年6月に発表された歯科画像診断に関する研究レビューでも、AIやディープラーニングによって、レントゲン画像上の病変の検出や分類、歯の位置の特定など、さまざまな研究が進んでいることが報告されています。
ただ、ここで大切なのは、AIが「診断そのものをすべて行う」というより、歯科医師の判断を助ける道具として使われているということです。
たとえば私たち歯科医師も、人間ですから見落としを完全にゼロにできるとは言い切れません。
そこにAIという「もうひとつの目」が加われば、診断を確認する材料が増える可能性があります。これは患者さんにとっても、良い方向の進化だと思います。
一方で、AIにも当然ながら限界があります。レントゲン画像だけを見れば同じように見える状態でも、実際には患者さんによって症状は違います。
「いつから痛いのか」
「噛んだときだけ痛いのか」
「何もしなくても痛いのか」
「以前どんな治療を受けたのか」
こうした患者さんとの会話も、診断では非常に重要です。
さらに、実際に口の中を診て、歯を触ったり、歯ぐきの状態を確認したりして初めて分かることもたくさんあります。
特に口腔外科の診療では、画像だけでは判断できないことも少なくありません。
親知らずを抜く場合でも、単純に「ここに親知らずがあります」ということだけではなく、歯の向き、骨との関係、神経との距離、患者さんの全身状態などを総合して判断します。
ですから私は、AIが進歩すればするほど、むしろ歯科医師には「AIが出した情報をどう判断するか」という能力が求められるようになるのではないかと思っています。
実際、2026年7月に発表された研究でも、歯科画像診断のAIは研究段階では高い性能を示すものがある一方、実際の診療で広く使うためには、異なる病院や機器でも同じように機能するのかなど、さらに検証が必要だと指摘されています。これはとても大切なことです。
AIが「ここに虫歯があります」と表示したからといって、それだけで歯を削るわけにはいきません。治療するのか、しばらく経過を見るのか。それを決めるのは、患者さんの状態や希望を理解した歯科医師でなければならないと思います。
私は、これからの歯科医療ではAIやデジタル技術を上手に取り入れながら、その一方で患者さんとの会話や診察をこれまで以上に大切にすることが必要になると考えています。
新しい技術を使うこと自体が目的なのではありません。診断をより確かなものにしたり、患者さんに分かりやすく説明したり、安全な治療につなげたりすること。
そのためにAIをどう使うかが大切です。歯科治療はこれからも少しずつ変わっていくと思います。
でも最後に大切なのは、「この患者さんにとって、どの治療が一番良いのか」を一緒に考えること。 そこは、どれだけAIが進歩しても変わらないのではないでしょうか。


